日英FTAと日EUFTAの

今日は日英EPAが日EUEPAとどのように違うのかを分析・概観する。この二つのEPA知財章も機械比較がワークする程度にはそっくりでわかりやすい。

https://draftable.com/compare/YFWMvrappqwI

  • 国際協定

日英のほうが概して広い条約をカバーしている。具体的には、日EUでは努力義務であったPLT、TLT、Singapore Treaty、マラケシュ条約については締結義務にされている。

EUでは言及すらなかった、ロカルノ条約、ニース条約も入っている。

他方、日EUでは努力義務として位置づけられていた北京条約は日英EPAでは言及がない。

  • Copyright

日EUEPAには規定がなかったものとして、日英EPAにはTechnological protection measures、 right management informationの規定がある。

  • TM

商標の著名性にあたって当該商標が登録がされていることを要件としてはならないことや、悪意の商標に関する規定がある。

  • GI

日EUEPAには、GIの明細書の記載にかかわらず、7年間は、商品のおろし、切り分け、包装が日本で行われる場合(日本国市場向けかつ再輸出目的でない場合に限る)もカバーする可能性があること、かかる規定の見直しを行う旨の規定がある。どういった趣旨か・・・
また、EPAの発効後速やかにGIリストの検討を行う旨の規定がある。

  • Industrial Design

保護期間が違う。EUでは20年以上とされていたが、日英では25年以上になっている。
また、出願において複数のデザインを出願できる制度の導入義務がある。

  • Patent

特許権に輸出の独占権があることが明記。

  • enforcement

Access to justiceに関する規定があったり、Criminal remedyに関する章があったり、Enforcement in the digital environmentに関する章がある。

 

総じて近しいが、日英EPAのほうがより一歩進んでいるような感触。

 

UK's FTA

UKはBrexitにあわせて多数の協定を締結した。UKはTPPの加入も予定していると報道されているが、その際にTPPの文言の修正を提案する可能性もある。その際のUKのスタンスはどのようになるか、最近締結した各協定が参考になりそう。

鬼のように締結しているけど、役所の人は大変だっただろうなあ・・・

UK trade agreements with non-EU countries - GOV.UK

日本

日英EPAにも知財章がある。

UK-Japan Comprehensive Economic Partnership Agreement - GOV.UK

EU

UKにとって念願だったであろうEU/UKのAgmtにおいても知財章もしっかりと置かれている(p125以下)。

Agreements reached between the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the European Union - GOV.UK

US

こちらは交渉中だが、バイデン政権の熱意が低めであることから、締結には時間がかかるかしら。一応知財章もあるし、それぞれのObjectivesも公表されている。

The UK's trade negotiations with the US - GOV.UK

 

米国が当事者となっている条約における知財章の有無等について

今日は米国の最近締結したFTA/EPAについて、概観してみたい。ほかにもあると思うので、適宜追記する予定。

米国はTrade Policy and Agendaというものを毎年公表しているので、transparentでいいですね。

https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/reports-and-publications/20202020 | United States Trade Representative

 

TPP

シンガポールニュージーランド、チリ及びブルネイで始まった交渉に、アメリカも参加を表明し、知財章にも大きな影響をもたらしたと考えられる。

2015年のアトランタ会合において大筋合意がなされ、翌2月に署名がなされたが(@NZ)、2017年1月にトランプ大統領により米国の脱退が表明された。

その後、再協議が行われ、2017年11月のダナンでの閣僚会合で11か国によるTPPにつき大筋合意に至り、2018年3月、チリでTPP11の署名が行われ、2018年12月30日に発効。TPP11では①TPP12を組み込んだうえ、②22項目(うち半数は知財)の凍結などが規定されている。

※国内手続きが完了した国は、メキシコ、日本、シンガポールニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナムの7か国。

TPP協定(和文)|外務省

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定|外務省

USMCA

2017年ー2018年、北米自由貿易協定NAFTA)の加盟国が再交渉し、2018年9月に大筋合意、同10月に正式に合意、同11月ブエノスアイレスで署名。

その後、2020年7月1日に発効。

知財章はTPPを下敷きにしていると考えられる。

United States-Mexico-Canada Agreement | United States Trade Representative

EU

EUとの間では2013年から2016年にかけてTransatlantic Trade and Investment Partnership(T-TIP)の協議がされたようだが、頓挫した。

TTIPの中には知財章もあったようであり、EUのウェブサイトではポジションペーパーなども公表されている。

EU negotiating texts in TTIP - Trade - European Commission

イギリス

Brexitに備え、2019 年2月に米英通商交渉の詳細な交渉目標が公開された(2019 Trade Policy Agenda and 2018 Annual Report of the President of the United States on the Trade Agreements Program)。その中にはIntellectual Propertyの項目が含まれている。

早期妥結を目指して交渉中とのことだが、リリースされたらその内容は要注目。

U.S.-UK Trade Agreement Negotiations | United States Trade Representative

中国

中合意に知財章が存在する。Trade secretやプロバイダの責任、医薬品特許・データについて中国側に対応を迫るものが多く、アメリカの関心事や中国側の焦燥が感じられる内容となっている。

Economic And Trade Agreement Between The Government Of The United States Of America And The Government Of The People’s Republic Of China Text | United States Trade Representative

日本

日米貿易協定・デジタル協定には知財章はなく、TPP再加盟又はこれらの協定のアップデートの際に知財章が議論になるか。注視したい。

日米貿易協定|外務省

日米デジタル貿易協定|外務省

 

韓国とのFTAは2012なので少し古いので除外した。余裕があるときにチェックしたい。

 

USMCAの知財章

突然だが、今日はUSMCA(米メキシコカナダ)の知財章についての検討をしたい。

  • 構成

USMCAの規定をみるとTPPと構成が非常に似ていることに気づかされる。完全に下敷きにしたというか、たたき台になっていることは間違いないだろう。

 https://draftable.com/compare/SyZKqCEvLxnQ(機械比較)を参照。

※手元に機械比較を行うソフトウェアがないので、無料サービスを用いて比較した。初めて使ったが、PDFも比較対象にできるし、そこそこ性能がよさそう。

 

  • 個別の条文の内容

詳細な分析は追って行う必要があるが、ざっと見た限り以下のような特徴が認められそうである。

  • 締結義務のあるInternational Agreementが異なっており、Hague Agreement(意匠に関する条約)やBrussel Convention(番組伝送信号に関する条約)の締結義務も課されている。なお、特許法条約はTPPと同じく努力義務にとどまっている。
  • CooperationとしてIPR Committeeの設置が定められている。
  • TM/Country Name/GI/はほぼ同じか。
  • Patent and Undisclosed Test or other Dataについては、生物製剤に関する規定がないことや、ジェネリック医薬品の調整に関する規定が異なるなど若干の違いがあるが、どのようなニーズによるものか要検討。
  • Designについてはより詳細な規定が置かれている。部分意匠の規定を置くことが義務付けられているほか、Grace Period、保護期間(15年)、電子出願・データベースに関する規定が置かれている。
  • Copyrightについての保護期間が少し異なっている(非自然人が公表した場合の保護期間が75年となっていて5年長い)こと、技術的保護手段についてより具体的な規定が置かれている。
  • Trade Secretに関する章はTPPにはなかった。米中合意でもしっかりとTrade Secretの章が置かれていたことを踏まえると、米国がTrade Secretを重視していることがわかる。
  • Enforcementでも詳細な規定がある。証明妨害に関する規定が置かれていたり、税関差し止めについてFTZ・保税倉庫の出し入れも対象になっていること、映画館の撮影がaudiovisual recording deviceの使用一般になっていること、ノーティス&テイクダウン制度の導入義務に関する規定が置かれていることなどが特徴的といえる。

総評

TPPの知財章はRCEP等と比較しても進んだ内容を定めているが、USMCAはTPPをより進めているといえるだろう。そして、Trade Secretの保護などアメリカの意向が反映されているように思われる。

その他参考

色々参考になりそうな記事もあるので、おって読みたい。また、自分の間違いが発覚したら恥ずかしいのでこっそり消したい。

www.osler.com

www.ptslaw.com

www.whitecase.com